2026年5月13日
English Grammar Deep Dive
【なぜ?】動詞に -s をつけるのか
— 1000年前の「燃えないゴミ」が今も残っている理由 —
He runs. She speaks. It works.
なぜ3人称単数の時だけ動詞に -s がつくのか、不思議に思ったことはありませんか?
答えは「英語1000年の歴史」の中に隠れています。
Contents
1. 昔の英語は「驚くほど複雑だった」
今から約1000年前、英語(古英語)には今の英語よりずっと複雑なルールがありました。
主語が変わるたびに、動詞の語尾をすべて変えなければならなかったのです。
2. バイキングが英語を「壊した」
約1000年前、北欧からバイキング(デーン人)がイギリスに押し寄せました。
彼らも英語に近いゲルマン語を話していましたが、動詞の語尾が微妙に異なっていました。
イギリス人
“helpeth”
バイキング
“helpas”
大まかに言えば、異なる語尾を持つ両者が会話を続けるうちに、細かい活用を捨てて
語順(誰が・何を・どうした)だけで意味を伝えるという力が自然に働きました。
異なる言語が接触したことで、細かい語尾よりも語順や文脈に頼る方向へ進んだ、と説明されることがあります。
バイキングとの接触は、英語から複雑な動詞活用がほぼ消滅していく大きな要因の一つと考えられています。
英語はこうして「語順で意味を伝える言語」へと根本的に変貌しました。
3. -th vs -s:最終決戦
16世紀頃まで、書き言葉では doeth, goeth, speaketh のように -eth(-th) が主流でした。
しかし話し言葉ではイギリス北部で -s が広まり始めます。
なぜ -s が勝ったのか?大きな理由の一つは「音のコスパ」、つまり -s の方が発音しやすかったということです。
-eth(th音): 舌を上歯の裏に当てて息を出す発音。エネルギーを使う。
-s: 息を漏らすだけ。発音の労力はほぼゼロ。
-s は北部方言で広まり、発音の軽さもあって、しだいに口語として優勢になっていきました。
シェイクスピアの作品にも -s と -eth の両方が見られ、当時がちょうど移行期だったことがわかります。
こうして -th は姿を消し、今日の -s だけが残りました。
4. なぜ「3人称・単数」だけ生き残ったのか
ここが最も深い謎です。全部消えればよかったのに、なぜ3単現だけ -s が残ったのか?
そう考えると理解しやすい視点があります。それは「情報の透明度」という見方です。
| 主語 | 特徴 | -s は? |
|---|---|---|
| I(私) | 話している本人。文脈から自明。 | 不要 |
| You(あなた) | 目の前にいる人。指をさせばわかる。 | 不要 |
| We / They(複数) | 主語自体に「複数」の情報が含まれる。 | 不要 |
| He / She / It | 「今ここにいない第三者」。最も情報が不透明。 | ✔ 必要! |
「I」と「You」は会話の現場にいるので、わざわざ語尾で印をつけなくても誰のことかわかります。
しかし「He/She/It」は「今ここにいない第三者」です。
結果として、-s は 「今、第三者の話をしているよ!」という印として機能するようになりました。
Core Insight
3単現の -s は、古い活用語尾の一部が現代まで残ったものです。
それが今日では「he / she / it の現在形を見分ける印」として機能しています。
5. 古英語の活用表を見てみよう
古英語「help(助ける)」の活用
| 主語 | 古英語の形 | 読み方 |
|---|---|---|
| I(私) | ic helpe | ヘルペ |
| Thou(あなた) | þū helpest | ヘルペスト |
| He / She(彼・彼女) | hē helpeð | th音で終わる ← ここが今の -s に! |
| We / They(私たち・彼ら) | wē helpað | th音で終わる |
今の日本語でも「行きます」「行くよ」「行こうか」と使い分けるように、昔の英語もこれと同じ発想で動詞を変化させていました。しかし時代が下るにつれ、英語はこの複雑さを一気に「断捨離」していきます。
6. 実践:いつ -s をつけるか
理屈がわかったところで、実際に使うための判定法を覚えましょう。
「I」でも「You」でもない第三者・第三物?
お母さん・猫・あのビル・太陽など「自分でも相手でもないもの」→ OK(次のステップへ)
「1人(1つ)」だけ?
名前が2つ並んでいたら複数。Ken → 1人 / Ken and Mary → 2人
「今の話(現在)」?
過去の話なら -ed を使うので -s は不要。
⚠ 迷いやすい主語
| 主語 | 理由 | -s |
|---|---|---|
| My family | 「1つのチーム」として扱う(学校英語では単数扱いで覚えればOK) | ✔ つく |
| Everyone / Everybody | 意味は全員でも、文法上は「1人ひとり」 | ✔ つく |
| This / That | 「1つ」を指している | ✔ つく |
Mini Quiz 1
次の空欄に動詞 ride の正しい形を入れなさい。
My brother _______ to school by bike every day.
▶ 答えを見る
rides
主語は My brother(兄・弟)。「私」でも「あなた」でもなく、1人の第三者。
現在の習慣を表しているので、ride に -s をつけて rides。
Mini Quiz 2
次の空欄に動詞 use の正しい形を入れなさい。
Everyone _______ a smartphone these days.
▶ 答えを見る
uses
Everyone は「全員」を意味するが、文法上は「1人ひとり」を指す単数扱い。
「みんないるから複数では?」という直感が最大の罠。use に -s をつけて uses。
7. 例外パターン3つ
基本は -s を足すだけですが、以下の3パターンだけ形が変わります。
Pattern 1 / -es をつける
語尾が s, sh, ch, x, o で終わる動詞。そのまま -s をつけると発音しにくいから。
teach → teaches /
wash → washes /
go → goes /
do → does
Pattern 2 / y → ies
y の前が子音(a, i, u, e, o 以外)の時だけ y を i に変えて -es。
study → studies (y の前は d) /
fly → flies (y の前は l)
※ play → plays(y の前は a)、buy → buys(y の前は u)はそのまま!
Pattern 3 / 別物になる
これだけは理屈抜きで覚える。
have → has
(haves とは言いません)
Conclusion
3単現の -s は、単なる「覚えるルール」ではありません。
バイキングとの接触で極限までシンプルになった英語が、
古い活用語尾の一部として現代まで最後に守った一線です。
つまり、3単現の -s は he / she / it の現在形にだけつく歴史の名残です。
この一文が頭に入れば、ルールは自然と導き出せます。
「なぜこれをつけるのか」と感じたら、
「1000年の歴史が残した最後の砦に付き合っている自分、なかなか博識だな」
と思っておけば十分です。
あなたが次に He runs. と書く時、その小さな -s の向こうに、1000年の歴史が見えるかもしれません。
YBA 教育研究会 英語コラム
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