徳川家康の成功の秘密は“待つ力”? 歴史から学ぶリーダーシップ術

徳川家康の成功の秘密は“待つ力”? 歴史から学ぶリーダーシップ術

生徒:

徳川家康って、本当に自分の力で天下を取ったんですか? なんか運が良かっただけって話も聞くんですけど…。

先生:

なかなか鋭い視点ですね。確かに関ヶ原では敵の武将が寝返って、家康にとって有利な流れになったのは事実です。ただ、「運が良かったから勝った」とだけ言ってしまうと、ちょっともったいない見方かなとも思うんです。

生徒:

運じゃないなら、何が勝因なんですか?

先生:

一言で言うなら、“準備”と“信頼”でしょうか。家康は戦いの前から、味方の絆を強めて、敵方には揺さぶりをかけていたんですよ。表に出てくるのは戦だけど、その裏で動いていた人間関係の構築が大きかったんです。

生徒:

え、実際には戦う前に勝負が決まってたってことですか?

先生:

うーん、完全にとは言えませんが…だいぶ勝敗は傾いていたかもしれませんね。ある意味、将棋の布石を打っておいて、相手が次の一手を打つ前に囲んでしまうような感覚です。

生徒:

でも、家康って昔は人質でしょ? どうしてそんなに先を読めるようになったんですか?

先生:

彼は今川家のもとに人質として送られ、かなり厳しい幼少期を過ごしました。自由もなく、命の保証もなかった。でも、そういう環境だからこそ、他人の動きをじっと見る力が育ったんじゃないかと考えられています。

生徒:

それにしても冷静すぎません? なんか…怖いというか。

先生:

その感想、実はすごく大事です。家康は冷静で、感情を表に出さないタイプでした。でも、それって強さでもあるし、時に“怖さ”にもつながる。例えば、将軍になってたった3年で息子に職を譲ったり…。普通の人なら「せっかく手に入れたのに」って思いますよね。

生徒:

え、もったいなくないですか、それ?

先生:

私も最初そう思いました。でも、それはあくまで表のポーズ。実際は“陰で支配を続ける”という、もっと深い戦略があったんです。前に出ず、裏から動かす。台本を書きながら演者に任せる、そんな姿勢ですね。

生徒:

あの…豊臣家を滅ぼした話ですけど、それってちょっと…ずるくないですか?

先生:

そう感じるのも自然です。実際、大阪城の堀を「和平の条件」として埋めさせた後に戦をしかけたという話もあって、公正とは言いがたい部分もあります。でも、それが家康の戦略でもあった。情より現実を優先したというべきでしょうか。

生徒:

なんだかずっと計算してる人ですね…。

先生:

ええ、家康に“油断”という言葉はなかったんでしょうね。彼の政権の仕組みも同じで、信頼できる大名は江戸の近くに、外様は遠くに配置。これ、今で言えば、重要な仕事は信頼できる社員に任せるような感覚です。

生徒:

でも、そこまでやって、後悔とか迷いはなかったんですかね?

先生:

…正直、それは分かりません。ただ、家康が長男に切腹を命じたという出来事を見ると、心の中に何かしら葛藤はあったと思いますよ。そうじゃないと人間じゃないですよね。

生徒:

なるほど。結局、何が一番すごかったんですかね、家康って。

先生:

私が思うに、「崩れなかったこと」でしょうね。最も強い者ではなく、最も揺れず、最後まで生き残った者。まさに、彼の言葉にあるように――

「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」

重たさを抱えて、焦らず、一歩ずつ。それが家康の天下取りだったのだと思います。