2026年2月19日

『博士の愛した数式』を読んで
この前、親と喧嘩した。
「お前は冷たい」と言われた。
その言葉だけが、しつこく残った。
でも数日たつと、内容はもう半分ぼやけている。
忘れたのか。忘れたふりをしたのか。
『博士の愛した数式』の博士は、毎朝、世界がまっさらになる。
それなのに、あの物語は穏やかだ。
穏やかすぎて、少し怖い。
もし、私の記憶が80分しか続かなかったら。
友達の名前も、好きな音楽も、昨日の自分の言葉も消える。
そのとき残るのは、何だろう。
それは忘却なのか、それとも改ざんなのか
楽しかったことも、後悔も、たぶん全部が、今の私を少しずつ作ってきた。
もしそれがゼロになったら、私はどこにいるのだろう。
博士は覚えていない。
それでも、同じようにやさしい。
それを見ると、「人は記憶じゃないのかもしれない」と思う。
でも同時に、少し疑う。
あのやさしさは、本当に“今”の博士のものなのか。
それとも、過去の博士の残り香なのか。
私はクラスで忘れ物をした子にノートを貸したことがある。
あれは、私がやさしいからだと思っていた。
でももしかしたら、「そうするものだ」と覚えているだけなのかもしれない。
なんか、自分のことなのに、全然分からなくなってきた。
博士は毎回「はじめまして」と言う。
でも、そのたびに、関係はちゃんと始まっている。
忘れる。でも、また出会う。
消える。でも、また向き合う。
私はずっと「かわいそう」だと思っていた。
でも本当は、私の方が、過去にしがみついて、言われた一言を何度も再生しているだけなのかもしれない。
そう気づいたとき、なんか少し、恥ずかしくなった。
答えは出なかった。
今日も出ない。
明日も多分、出ない。
でも、なぜか、怒る気にはなれなかった。