2026年1月31日

普通、ってなんだろう
――森絵都『カラフル』
テストが返ってくる。
真ん中あたりの点数。
悪くない。良くもない。
名前を見つけて、少し安心する。
すぐに何も感じなくなる。
部活のレギュラー発表。掲示板の前に人が集まっている。
自分の名前は、やっぱりない。
「まあ、そうだよな」
驚きもしない。期待していなかったから。
家に帰ってスマホを開く。投稿した写真の「いいね」は、十数個。
誰かに褒められるわけでもなく、誰かに叩かれるわけでもない。
ただ、静かに流れていく。
普通。
この言葉が、いつからか少し重くなった。
森絵都の『カラフル』に登場する主人公も、そんな「普通」の中にいる。
勉強が特別できるわけでもない。人から注目される存在でもない。将来の夢を語れるほど、自分のことがわかっているわけでもない。
教室にいれば、ちゃんと出席しているのに、いなくなっても気づかれないような位置。
誰かと大きく衝突することもない代わりに、強く必要とされることもない。
彼は、まさに”どこにでもいる少年”だ。
物語は「生まれ変わり」という少し不思議な設定から始まるが、待っている日常は、驚くほど地味だ。
朝、眠い目で起きる。
家族とぎこちない会話をする。
学校へ行き、失敗し、後悔し、うまく笑えない。
人生が劇的に好転する瞬間は訪れない。
それでも
あるとき主人公は気づく。
朝、母親が黙って置いていく朝食。
父親の不器用な気遣い。
兄との、噛み合わないけれど確かに存在する距離感。
夕方、台所から漂ってくる味噌汁の匂い。テレビの音と、食器が触れ合う小さな音。誰も大事な話なんてしていない、どうでもいい食卓の会話。
それまで「当たり前すぎて見えていなかったもの」が、少しずつ、輪郭を持ちはじめる。
教室で笑っているあの人も、帰り道では黙り込んでいるかもしれない。
誰もが不器用で、それでもなんとか生きている。
世界は、白でも黒でもなかった。
明るい色ばかりではないし、汚れた色や、濁った色も混じっている。
でも、全部を合わせると、確かにそこには色があった。
カラフルだった。
特別じゃなくても
何かを成し遂げなくても、生きていていい。夢がなくても、誰かより優れていなくても、それでも人生は続いていく――そう言葉で言われても、きっと響かない。
でも主人公は、言葉ではなく、日常の小さな場面の積み重ねの中で、それを知っていく。
彼は最後まで「特別」にならない。
それでも彼の見る世界は、確かに変わっている。
何も変わらない日常の中で、見え方だけが、少し変わる。
それだけで、生きる理由は十分だった。
読み終えたあと
世界が劇的に変わるわけではない。
明日も、同じ教室があり、同じ通学路があり、同じような一日が続く。
それでも――その「同じ」が、少しだけ違って見えるかもしれない。
普通の一日が、ほんの少し色を帯びて見えるかもしれない。
自分には何もない気がするとき。
誰かと比べて、疲れてしまったとき。
このページを開いてみてほしい。
特別じゃなくてもいい。
普通のままで、生きていていい。
世界は、今日もたぶん、同じように続いていく。
それでも――少しだけ、色が違って見えるかもしれない。