2005年京都大学後期・数学(理系)の正体|なぜ第6問は「計算を1行もせず」に解けるのか?

2005年京都大学後期・数学(理系)の正体|なぜ第6問は「計算を1行もせず」に解けるのか?

2005年(平成17年)京都大学後期 数学(理系)第6問

表と裏をひっくり返したら、答えが見えた

コインの「見方」を変えるだけで、複雑な確率が一瞬で解ける

100円玉を n 枚、500円玉を n+1 枚、同時に投げる。「500円玉のほうが表の枚数が多い確率を求めよ」──この問いに正面から向かうと、二項係数を用いた総和計算が複雑に絡み合い、かなり面倒になる。

しかし答えは 1/2 だ。そしてその理由は、式変形の技巧ではなく、たった一度の「視点の転換」で説明できる。

◆ 問題文

n 枚の100円玉と n+1 枚の500円玉を同時に投げたとき、
表の出た100円玉の枚数より表の出た500円玉の枚数の方が多い確率を求めよ。

解法① 全コインをひっくり返す──対称性の論理

まず、求めたい確率を事象として整理する。

事象 E500円玉の表の枚数 > 100円玉の表の枚数
補事象 Ec100円玉の表の枚数 ≥ 500円玉の表の枚数

E と Ec は互いに補事象の関係にあるから、P(E) + P(Ec) = 1。

ここで、すべてのコインの表と裏を一斉にひっくり返す操作を考える。

どの表裏の並びも同じ確率 (1/2)2n+1 で起こるため、反転しても確率分布は変わらない。

では、ひっくり返した後に何が起きるか。100円玉の表の枚数を m、500円玉の表の枚数を j とすると、操作後はそれぞれ nm、(n+1)-j になる。

操作後の「500円玉の表 > 100円玉の表」という条件を整理すると

(n+1)-jnm
⟺ mj-1
⟺ mj  (m, j は整数なので同値)
⟺ 「100円玉の表 ≥ 500円玉の表」

つまり、ひっくり返した後に「事象 E が成立する」ことは、元の状態で「事象 Ec が成立していた」ことと同じだ。

◎ n = 2 の場合で確かめる

全コインをひっくり返す操作の具体例(n=2)

しかも、この反転操作はもう一度行えば元に戻る。したがって事象 E に属する各結果と事象 Ec に属する各結果は、完全な一対一の対応関係にある。確率分布も保たれているから、P(E) = P(Ec)

P(E) + P(Ec) = 1 と合わせれば、答えは即座に出る。

P(E) = 1/2

n の値に関わらず、この論理は常に成り立つ。

解法② 最後の1枚を後から追加する

解法①だけで答えは出る。ここからは、同じ結論を別の角度から確かめる。

本問の鍵は500円玉が 1 枚だけ多いことにある。その「余分な1枚」を後から投げ加える、という発想だ。ここでは p の値そのものは求めず、最後に p が消える構造を利用する。

まず、コインを「n 枚の100円玉」と「n 枚の500円玉」の計 2n 枚で投げる場面を想定する。枚数が等しいため、表の出る枚数の分布は完全に対称になる。この段階での確率を次のように置く。

勝ち500円玉の表 > 100円玉の表確率 p
負け500円玉の表 < 100円玉の表確率 p(対称性より)
引き分け500円玉の表 = 100円玉の表確率 1-2p

ここへ、もう1枚の500円玉を投げ加える(表になる確率は 1/2)。

出発点追加1枚を加えた後「500 > 100」になるか寄与
勝ちの場合既に差が 1 以上あるため、追加の1枚の結果に関わらず成立p × 1
引き分けの場合追加の1枚が表のとき(確率 1/2)だけ成立(1-2p) × 1/2
負けの場合追加の1枚が表でも最大で同点になるだけで、「500 > 100」にはならないp × 0

3つの寄与を足し合わせると

P = p×1 + (1-2p)×1/2 + p×0
= p + 1/2 - p
= 1/2

p が完全に消えた。n 枚ずつのときの確率 p が何であるかに関わらず、答えはちょうど 1/2 になる。

二つの解法が示すもの

解法①と解法②は、アプローチこそ違うが同じ本質を指している。

着眼点
解法①「全コインをひっくり返す」対称変換。事象 E と事象 Ec が等確率であることを直接示す。
解法②余分な1枚をあとから足す発想。未知数 p が最終式から消える構造を利用する。

どちらの解法も、二項係数を用いた総和計算を一切使わない。この問題は、数え上げより「見方の正確さ」が重要であることを教えてくれる。

この問題が問いかけること

大学入試において計算力は確かに重要だ。ただ、単なる式変形の速さよりも対称性を見抜く力を重視する、京大らしさがこの問題には感じられる。「対称性」という概念──同じ状況を別の座標系から眺めること──は、確率論だけでなく代数・幾何・解析のいたるところに顔を出す。

式を立てる前に、どの角度から見るかを考える。それがこの問題から得られる最大の収穫かもしれない。

答えは 1/2。しかしそこに辿り着く「視点」こそが、数学を学ぶ本当の理由だ。

コインの表と裏は対等である。その当たり前の事実を、どこまで精密に言語化できるか。京大はそれを問うていた。

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