2026年5月31日
英語文法 / 仮定法・条件文
If we fail…
— Churchill, 18 June 1940
| ◆ |
チャーチルの名演説で学ぶ
仮定法と条件文の違い
「仮定法といえば would。If + 過去形, would + 動詞の原形——この形を覚えておけば大丈夫」
多くの人はそう思っています。
しかし、ヨーロッパが崩壊しかけた1940年の夜、チャーチルはその would をあえて使いませんでした。
なぜか。そしてその選択が、仮定法の本質を教えてくれます。
今回は教科書を脇に置いて、1940年のロンドンへ行きましょう。
ナチス・ドイツがヨーロッパを席巻し、フランス戦線が崩壊して降伏へと向かっていた時期。イギリスはヨーロッパ大陸でほぼ単独でドイツと向き合う状況に追い込まれていました。そのとき、首相ウィンストン・チャーチルが英国下院で放った一言が、仮定法の本質を教えてくれます。
📜 1940年6月18日、英国下院での演説 |
“
If we fail, then the whole world, including the United States,
including all that we have known and cared for,
will sink into the abyss of a new Dark Age…
— Winston Churchill, “Their Finest Hour” speech, 18 June 1940(一部抜粋)
※ 英文は文法解説に必要な範囲で一部を引用しています。
日本語訳
「もし私たちが失敗するなら、アメリカを含む全世界が、私たちが知り大切にしてきたすべてのものとともに、新たな暗黒時代という深淵へと沈んでいくことになるだろう」
🔍 Step 1 ── 長い文を恐れない。まず「骨」を取り出す |
この文が難しく見える理由は、中身に長い「飾り」がぶら下がっているからです。including ~(〜を含めて)や all that we have known and cared for(私たちが知り、大切にしてきたすべてのもの)は、世界がどれほど広いかを強調する修飾語にすぎません。
飾りをすべて取り除くと、骨組みだけを見れば中学英語で読める構造になります。
| 条件節(if節) | If we fail, |
| 主節(結果) | the whole world will sink. |
※ including を重ねることで、「アメリカも、私たちが大切にしてきたものも、すべて」という広がりとリズムが生まれています。これがチャーチル演説の技法です。
⚡ Step 2 ── なぜ “If we failed, would sink” じゃないのか |
高校で「仮定法過去」を習いましたね。
If + 過去形, would + 動詞の原形 → 「もし〜なら、〜だろうに(現実には違う)」というルールです。
📌 英語の重要ルール:if節の中では、未来のことでも will を使わない
| × | If we will fail, … | → こうは言わない |
| ○ | If we fail, … | →「もしこれから失敗するなら」という未来の条件 |
“If we fail” は「今この瞬間に失敗している」ではありません。英語では未来の条件を表す if節に will を入れないのがルールで、現在形がその代わりを果たしています。
| 表現 | 英語の形 | 聞こえ方 |
|---|---|---|
| チャーチルが 使わなかった形 | If we failed, the world would sink… | 内容は深刻でも、「現実に今まさに起こりうる危機」としての切迫感は弱まる |
| チャーチルが 実際に使った形 | If we fail, the world will sink… | 「これは今夜にも起こりうる本物の危機だ」という現実の切迫感 |
もちろん仮定法過去を使っても言葉の内容は深刻ですが、「今まさに起こりうる危機だ」という響きは変わります。チャーチルはあえて過去形にせず、現在形の fail と will を選んだ。それによって、聴衆は「これは明日にも現実になる脅威だ」と感じることになったのです。
📌 まとめ:3つの「if」の使い分け |
| 種類 | 形 | 話し手の距離感 |
|---|---|---|
| 条件文 | If + 現在形, will ~ | 現実的・十分起こりうる |
| 仮定法過去 | If + 過去形, would ~ | 現在の事実に反する、または現実味が薄い |
| 仮定法過去完了 | If + had + 過去分詞, would have ~ | 過去の事実に反する(もうやり直せない) |
Column
文法は「ルール」ではなく「選択」だ
チャーチルは文法の試験を受けていたわけではありません。
この文脈では、would を使うと「現実から距離を置いた仮の話」として聞こえ、will を使うと「現実に起こりうる結果」として響きます。チャーチルの言葉は、どの文法形式を選ぶかで響きが変わることを教えてくれます。
英語の文法を「正解を選ぶためのルール」としてではなく、「自分の意図を正確に伝えるための道具」として使えるようになったとき、英語は本当の力を持ちます。
あなたが次に英語で何かを書くとき、will を選ぶか、would を選ぶか。
その一語に、あなたの意図が宿っています。
YBA教育研究会
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