【数学】『0.9999…=1』の嘘|定番の3つの説明が「言わずに済ませていること」の正体

【数学】『0.9999…=1』の嘘|定番の3つの説明が「言わずに済ませていること」の正体

MATHEMATICS

「0.9999…=1」は本当か
――定番の3つの説明が、言わずに済ませていること

「0.9999…(9が無限に続く数)は、1と同じである」。これは数学として正しい命題です。ところが、この話を初めて聞いた人のほとんどが「いや、ほんの少しだけ1より小さいはずだ」と感じます。

ネット上には、この違和感を解消する定番の説明がいくつも並んでいます。どれもうまくできています。ただし――そのどれもが、ある一点について沈黙しています。この記事では、定番の説明を押さえたうえで、その沈黙の中身まで踏み込みます。

1. なぜ引っかかるのか――違和感の正体

「0.9999…」という表記を見た瞬間、私たちの頭の中では、ある映像が自動再生されます。

0.9 → 0.99 → 0.999 → 0.9999 → …

9がどんどん増えていく映像です。そして、この映像に映っている数はすべて、確かに1より小さい。だから「1には届かない」と感じる。

この感覚そのものは、まったく正しいのです。間違っているのは、この映像を「0.9999…」だと思ってしまうこと。「…」は9を追加し続けている途中経過ではなく、有限小数の列が向かう先を表す記号です。

この記事の中心命題を、先に置いておきます。動いているのは 0.9、0.99、0.999、… のほうであって、0.9999… そのものではありません。

2. よく使われる3つの説明

◆ 説明① 3分の1を3倍する

1÷3=0.3333… であることは、電卓でも確かめられます。両辺を3倍すれば、左辺は 1/3×3=1、右辺は 0.3333…×3=0.9999…。したがって 1=0.9999…。

◆ 説明② 間に数が入らない

異なる2つの数の間には、必ず別の数があります。0.9と1の間には0.95、0.99と1の間には0.995。では、0.9999…と1の間にある数は――9がもう無限に並んでいるので、後ろに新しい数字を置く場所がありません。間に何も入らない2数は同じ数だ、というわけです。

◆ 説明③ 10倍して引く

X = 0.9999…
10X = 9.9999…
──────────────
10X − X = 9.9999… − 0.9999…
9X = 9
X = 1

3. 3つの説明が黙っていること

ここからが本題です。ただし先に、はっきり断っておきます。上の3つは、どれも間違っていません。問題は、間違っていることではありません。土台を説明せずに、その上だけを見せていることです。

説明①が借りているもの
これは循環論法ではありません。1÷3=0.3333… は、0.9999…=1 とは独立に導けるからです。ただしその導出は、「無限に続く小数がひとつの数を指す」という約束をすでに使っています。①は答えを前提にしているのではなく、土台のほうを確定済みのものとして借りている。疑っている生徒に①が効かないのは、その生徒がまさに、借りられている土台のほうを疑っているからです。

説明③が借りているもの
10×0.9999…=9.9999… と桁がきれいに1つだけずれること。そして引き算で、無限に続く部分がちょうど打ち消し合うこと。有限桁ならどちらも当たり前ですが、桁が無限にある数でも同じ規則が使えるかどうかは、それ自体が証明を要する事柄です。結論から言えば使えます。ただしその正しさは、極限の性質から出てくるものです。

説明②が借りているもの
3つの中で、必要な道具は最も少ない。足し算も掛け算も使わず、大小の比較だけで済むからです。その意味では最も筋がいい。ただし「後ろに数字を置く場所がない」というのは表記についての話であって、数の存在についての話ではありません。「書けないから存在しない」とは、直ちには言えないのです。これを証明にするには、やはり0.9999…が何を指すのかが要ります。

共通しているのは同じ一点です。「0.9999… とは、そもそも何を意味する記号なのか」を先に決めないと、本当はどの説明も動き出せない。3つはいずれも、その決定を済ませたことにして先へ進んでいます。

4. 「…」の正体――定義から始める

ここで、よくある言い方を一つ訂正します。0.9999… は、1に近づいてなどいません。近づくという動きをしているのは、まったく別のものです。それを見るために、まず記号の意味を確定させます。

高校数学まで進むと、この記号の意味がはっきり与えられます。0.9999… とは、次の無限個の足し算のことです。

9/10 + 9/100 + 9/1000 + 9/10000 + …

ただし「無限個を足す」という操作そのものは、そのままでは意味を持ちません。そこで数学は、途中まで足した数(部分和)の列を考えます。

部分和1との差
0.90.1
0.990.01
0.9990.001

n番目の部分和と1との差は、10のn乗分の1。ここで決定的なのは次の事実です。どんなに小さな正の数を持ってきても、ある番号から先は、差がずっとその数より小さくなる。この状態を「極限が1である」と言います。

等比級数の公式(初項a、公比r、|r|<1のとき和は a/(1−r))を使えば、a=0.9、r=0.1 で、0.9/(1−0.1)=0.9/0.9=1。

◎ そして、ここが最大のポイントです。

「0.9999… は1に近づいていく」のではありません。近づいていくのは部分和(有限個の9で止めた数)のほうです。
0.9999… という記号は、その行き先そのもの、つまり最初から1という値の別名です。この記号自体はどこにも動きません。

0.9、0.99、0.999、…1に近づいていく(動いている)
0.9999…1そのもの(動かない)

この2つは、見た目が似ているだけのまったく別の対象です。違和感の正体は、上の行を見ながら下の行の話をしていた、というすれ違いにあります。

したがって、0.9999…=1 は「不思議な発見」ではありません。「…」の意味を極限と定めた、その定義から必然的に出てくる結論です。

なお、この話をするときによく使われる「1に永遠に届かない微小な差を、無限の力でゼロに押しつぶす」といった表現は、イメージとしては魅力的ですが正確ではありません。0.9999… という実数と1との間には、押しつぶすべき差が最初から存在しないのです。差が存在するのは、0.9、0.99、0.999、… と1との間だけです。

◆ 土台が入ると、3つの説明は本物になる

意味が確定した時点で、2章の3つの説明はそれぞれ正式な証明に昇格します。たとえば説明②は、こう書き直せます。(以下の枠内は高校数学の内容です。飛ばしても本筋は通ります)

仮に 0.9999… < c < 1 となる数 c があったとする。1−c は正の数だから、番号 n をうまくとれば 10のn乗分の1 を 1−c より小さくできる。すると
c < 1 − 10のn乗分の1 = 0.99…9(9がn個)
となる。ところが 0.9999… は、どの部分和よりも小さくならない数として定められている。したがって c < 0.9999… となり、最初の仮定と矛盾する。ゆえに間に入る数は存在せず、0.9999…=1。

「書く場所がない」ではなく、「その数を仮に置くと矛盾が起きる」。発想は同じでも、証明としての強さはまったく違います。この差を生んだのは、間に置かれた一行の定義だけです。

5. なぜ同じ数に2つの名前があるのか

私たちは「1つの数の書き方は1通り」と思い込んでいます。しかし小数表記というのは、数字の並びから実数への対応にすぎません。この対応は、すべての実数を書き表せる一方で、同じ数を2通りに書けてしまう場合があるのです。

1 = 1.0000… = 0.9999…
0.5 = 0.5000… = 0.4999…
2 = 2.0000… = 1.9999…

ただし、この二重表記を持つのは有限小数として表せる数だけです。10進法でいえば、分母が2と5だけでできている分数がそれにあたります。1/3=0.3333… には、もう一つの書き方はありません。

そしてこれは10進法固有の欠陥でもありません。2進法では 0.111…=1、3進法では 0.222…=1 となります。位取り記数法という仕組みを採用した時点で、必ず生じる仕様だということです。

6. 鋭い生徒からの2つの反論

◆「無限に小さい差があるのでは?」

実数の世界には、0ではないのにどんな正の数よりも小さい数(無限小)は存在しません。これはアルキメデスの性質と呼ばれます。したがって 1−0.9999… は、0であるか、ある正の大きさを持つかのどちらかです。正の大きさを持つなら、その半分だけ手前に別の数が置けるはずですが、置けない。ゆえに0です。

◆「無限小を認める数体系ならどうなる?」

超実数のように無限小を持つ体系は実際に存在します。ただし注意が必要です。そうした体系においても、0.9999… を「0.9、0.99、0.999、… という実数列の極限」と読む限り、値は1のままです。「無限番目の桁で打ち切った数」は別の対象であって、「9が無限に続く小数」という記号の通常の意味ではありません。答えが変わるように見えるときは、記号の意味そのものを取り替えているのです。

7. 教える側の使い分け

相手有効な説明
小学生〜中1ケーキを3等分して戻す話/間に数が入らない話
中3〜高110倍して引く文字式。ただし「無限桁でも同じ規則が使えると仮定した説明だ」と一言添える
高2以上等比級数の和と極限
納得しない生徒「…」の定義そのものから始める(本記事の4章)

3章で説明③の前提の危うさを指摘しましたが、それは「使うな」という意味ではありません。危ないのは③そのものではなく、仮定を伏せたまま使うことです。「無限桁でも同じ規則が使えると仮定している」と一言添えるだけで、③はその学年にとって正直な説明になります。

納得しない生徒に対して、①や③を繰り返し押しつけるのは逆効果です。その生徒は、説明が飛ばしている場所を正確に嗅ぎつけているからです。

この話が本当に教えていること

数学では、記号を使う前に、その記号が何を意味するかを定めます。「無限に続く小数」も例外ではありません。0.9999…=1 という等式は、驚くべき発見ではなく、その取り決めが最後まで破綻なく働いていることの現れです。

そして生徒が最初に感じる違和感は、間違いなどではありません。それは「ここには定義が必要だ」という、数学のいちばん大事な場所を、直感が正確に指し示しているということなのです。

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