2026年6月17日
2005年(平成17年)京都大学後期 数学(理系)第6問
表と裏をひっくり返したら、答えが見えた
コインの「見方」を変えるだけで、複雑な確率が一瞬で解ける
100円玉を n 枚、500円玉を n+1 枚、同時に投げる。「500円玉のほうが表の枚数が多い確率を求めよ」──この問いに正面から向かうと、二項係数を用いた総和計算が複雑に絡み合い、かなり面倒になる。
しかし答えは 1/2 だ。そしてその理由は、式変形の技巧ではなく、たった一度の「視点の転換」で説明できる。
◆ 問題文
n 枚の100円玉と n+1 枚の500円玉を同時に投げたとき、
表の出た100円玉の枚数より表の出た500円玉の枚数の方が多い確率を求めよ。
解法① 全コインをひっくり返す──対称性の論理
まず、求めたい確率を事象として整理する。
| 事象 E | 500円玉の表の枚数 > 100円玉の表の枚数 |
| 補事象 Ec | 100円玉の表の枚数 ≥ 500円玉の表の枚数 |
E と Ec は互いに補事象の関係にあるから、P(E) + P(Ec) = 1。
ここで、すべてのコインの表と裏を一斉にひっくり返す操作を考える。
どの表裏の並びも同じ確率 (1/2)2n+1 で起こるため、反転しても確率分布は変わらない。
では、ひっくり返した後に何が起きるか。100円玉の表の枚数を m、500円玉の表の枚数を j とすると、操作後はそれぞれ n-m、(n+1)-j になる。
操作後の「500円玉の表 > 100円玉の表」という条件を整理すると
⟺ m > j-1
⟺ m ≥ j (m, j は整数なので同値)
⟺ 「100円玉の表 ≥ 500円玉の表」
つまり、ひっくり返した後に「事象 E が成立する」ことは、元の状態で「事象 Ec が成立していた」ことと同じだ。
◎ n = 2 の場合で確かめる
しかも、この反転操作はもう一度行えば元に戻る。したがって事象 E に属する各結果と事象 Ec に属する各結果は、完全な一対一の対応関係にある。確率分布も保たれているから、P(E) = P(Ec)。
P(E) + P(Ec) = 1 と合わせれば、答えは即座に出る。
P(E) = 1/2
n の値に関わらず、この論理は常に成り立つ。
解法② 最後の1枚を後から追加する
解法①だけで答えは出る。ここからは、同じ結論を別の角度から確かめる。
本問の鍵は500円玉が 1 枚だけ多いことにある。その「余分な1枚」を後から投げ加える、という発想だ。ここでは p の値そのものは求めず、最後に p が消える構造を利用する。
まず、コインを「n 枚の100円玉」と「n 枚の500円玉」の計 2n 枚で投げる場面を想定する。枚数が等しいため、表の出る枚数の分布は完全に対称になる。この段階での確率を次のように置く。
| 勝ち | 500円玉の表 > 100円玉の表 | 確率 p |
| 負け | 500円玉の表 < 100円玉の表 | 確率 p(対称性より) |
| 引き分け | 500円玉の表 = 100円玉の表 | 確率 1-2p |
ここへ、もう1枚の500円玉を投げ加える(表になる確率は 1/2)。
| 出発点 | 追加1枚を加えた後「500 > 100」になるか | 寄与 |
|---|---|---|
| 勝ちの場合 | 既に差が 1 以上あるため、追加の1枚の結果に関わらず成立 | p × 1 |
| 引き分けの場合 | 追加の1枚が表のとき(確率 1/2)だけ成立 | (1-2p) × 1/2 |
| 負けの場合 | 追加の1枚が表でも最大で同点になるだけで、「500 > 100」にはならない | p × 0 |
3つの寄与を足し合わせると
= p + 1/2 - p
= 1/2
p が完全に消えた。n 枚ずつのときの確率 p が何であるかに関わらず、答えはちょうど 1/2 になる。
二つの解法が示すもの
解法①と解法②は、アプローチこそ違うが同じ本質を指している。
| 着眼点 | |
|---|---|
| 解法① | 「全コインをひっくり返す」対称変換。事象 E と事象 Ec が等確率であることを直接示す。 |
| 解法② | 余分な1枚をあとから足す発想。未知数 p が最終式から消える構造を利用する。 |
どちらの解法も、二項係数を用いた総和計算を一切使わない。この問題は、数え上げより「見方の正確さ」が重要であることを教えてくれる。
この問題が問いかけること
大学入試において計算力は確かに重要だ。ただ、単なる式変形の速さよりも対称性を見抜く力を重視する、京大らしさがこの問題には感じられる。「対称性」という概念──同じ状況を別の座標系から眺めること──は、確率論だけでなく代数・幾何・解析のいたるところに顔を出す。
答えは 1/2。しかしそこに辿り着く「視点」こそが、数学を学ぶ本当の理由だ。
コインの表と裏は対等である。その当たり前の事実を、どこまで精密に言語化できるか。京大はそれを問うていた。
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