2026年5月26日
YBA教育研究会 / 英語コラム
なぜ go の過去形は went なのか
——英語史が隠していた、1000年前の「合体事件」
英語を習いはじめた誰もが、一度は首をかしげます。
go → went……どこにも “go” の面影がない。
学校では不規則変化として覚えますが、ただの丸暗記で終わらせるにはもったいない語です。
実は、今から約1000年前に起きた「言語の合体劇」の結果なのです。
細かい変遷には諸説や段階差がありますが、大づかみに言えば——話はこう展開します。
二つの動詞が存在した時代
古い英語には、現在の go に近い意味を持つ動詞と、「進む・向かう」を表す wend 系の動詞が並んで存在していました。
| 動詞 | 意味 | 過去形の状況 |
|---|---|---|
| go | 行く | eode など——go とは形が大きく離れていて、語形としてわかりにくかった |
| wend | 進む・向かう | went——短く、過去形として定着していった |
意味が近い語形が並んでいると、時代の中で一方の語形が別の語の活用に入り込むことがあります。
現代英語では go が一般的な「行く」を表す動詞として残り、wend は限られた表現にのみ残るようになりました——ところが問題がありました。
go の過去形(eode)は、go とのつながりが見えにくい形だったのです。
何世代もかけて起きた「いいとこ取り」
ある日突然そうなったのではありません。
何世代にもわたる話し言葉の積み重ねの中で、ごく自然に置き換わっていった——それが実態です。
人々が選んだ解決策はシンプルでした。
「go の過去形、わかりにくいな……
どうせ wend は廃れていくんだから、そっちの過去形(went)を借りちゃえばよくない?」
もちろん、実際に人々がそう考えて決めたわけではありません。長い時間の中で、話し言葉の習慣として自然にそう定着していったのです。
こうして go(現在形)+ went(過去形) という組み合わせが生まれ、
そのまま現代英語に引き継がれたのです。
言語学では、このように別々の語源の語形が一つの動詞に統合される現象を「補充法(suppletion)」と呼びます。
スポーツで言えば、チーム名は go のままなのに、過去形のポジションだけ wend チーム出身の went が入ったようなものです。名前はチームのまま、でも過去形の選手は元別チームの出身——それが今の go / went の姿です。
go の現在形と wend の過去形が統合されて、現代の go / went が生まれた
補充法は go だけじゃない
実は英語には同じ「いいとこ取り」の例が他にもあります。
| 現在の形 | 変化形 | 実は別語源 |
|---|---|---|
| good(良い) | better / best | 語源の異なる別系統の比較級・最上級が補充的に使われている例 |
| bad(悪い) | worse / worst | bad とは別系統の語形が比較級・最上級として定着した例 |
| be(である) | am / is / are was / were / been | 3つの全く異なる語源の動詞が長い歴史の中で合体——だからここまでバラバラに見える |
be / am / is / are / was / were / been がこれほどバラバラに見えるのは、
それぞれ別語源の動詞が何百年もかけて合体し続けた名残です。
ただし、英語の不規則変化すべてが補充法というわけではありません。
sing → sang → sung のような変化は、古英語の母音交替のルールに由来するもので、また別の話です。
go / went は、その中でも特にわかりやすい「別語源の合体」の例として知られています。
wend は今でも生きている
現代英語では wend は日常的にはほとんど使われなくなりました。
しかし、文語的な表現の中にひっそりと生き残っています。
wend one’s way
「(時間をかけて)ゆっくりと道を進む」
“We wended our way through the narrow streets.”
(私たちは細い路地をゆっくりと進んだ)
古い wend の系譜は、現代英語のこの表現にも残っています——
言葉の世界には、こういう静かな執念があります。
「なぜ?」を持つ人が英語を制する
went は、言語が生き物として何世代もかけて変化してきた痕跡です。
不規則変化の単語に出会ったとき、ぜひ一度だけこう思ってみてください。
「丸暗記するしかない、ではなく——何か歴史的な理由があるのでは?」
その一歩が、英語の知識を使える記憶に変えます。
go / went を覚えることは、英語が1000年かけて変化してきた痕跡に触れることでもあります。
では、次に出会う不規則変化は——どんな歴史を隠しているのでしょうか。
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