【英語・英文法】過去形は「昔のこと」ではなく「遠くのこと」|丁寧表現と仮定法がひとつの感覚でつながる理由

【英語・英文法】過去形は「昔のこと」ではなく「遠くのこと」|丁寧表現と仮定法がひとつの感覚でつながる理由

英文法の本質 ◆ 時制

過去形は「昔のこと」ではなく
「遠くのこと」

丁寧な依頼も、仮定法も、ひとつの感覚でつながる

学校では「過去形=昔のこと」と習います。ところが英語を読み進めると、この説明では片づかない過去形に何度も出会います。

英文話しているのはなのに…
Could you help me?今のお願いcould(過去形)
If I were a bird, …今の話were(過去形)
It’s time you went to bed.これから寝る話went(過去形)

3つとも「昔のこと」ではありません。それでも英語は過去形を使います。なぜでしょう。

もちろん、過去形のいちばん基本の働きは「過去の時間」を表すことです。ただ、それだけでは説明できない過去形があります。そこで役に立つのが「距離」という考え方です。英語の過去形には、時間を昔へずらすだけでなく、「今・ここ・現実」から一歩離れる働きがあります。

◆ 過去形はタイムマシンではなく「望遠鏡」

現在形は、話し手が「今の世界に属すること」として示す形です。過去形は、そこから一歩離れた場所を眺めるときに使えます。英語の話し手は、「今・ここ・現実」から離れていることを示したいときに、過去形のボタンを押すわけです。

何から離れるのかによって、代表的な使い方が3つに分かれます。

過去形の3つの距離:時間の距離・心の距離・現実の距離

過去形の代表的な3つのルート
この記事の読み方
過去形を「今・ここ・現実」から離れていることの目印と考えると、ばらばらに見える用法がつながって見えてきます。
※過去形のすべてを「距離」ひとことで定義できる、という意味ではありません。英語学でも、仮定法や控えめな言い方の過去形を「遠さ(remoteness)」で説明する考え方は有力ですが、唯一の説明というわけではありません。この記事では、用法どうしをつなぐ「理解の軸」として距離を使います。
過去形を見たら「昔!」と反射しない。
まず「何から離れている?」と考える。

◆ ① 時間の距離:昔のこと

いちばん基本のルートです。昨日や去年の出来事は、今いる地点から時間的に離れた場所にあります。

I play tennis.
(普段)テニスをする。
習慣。今の自分の生活に属することとして述べている。
I played tennis.
テニスをした。
今から時間的に離れた、過去の一点について述べている。

過去形は、話の焦点を「今」ではなく過去の時点に置きます。そのため、文脈によっては「今はもう違う」という含みが出ます。次の2文を比べてみましょう。

I lived in Osaka for ten years.
大阪に10年住んでいた。
期間を区切って過去形で言うと、ふつうは「今はもう住んでいない」と受け取られる。
I have lived in Osaka for ten years.
大阪に住んで10年になる。
今も住んでいる。現在完了形は「今」とつながったまま。

ただし、過去形がいつも「今は違う」を意味するわけではありません。I met Ken in Paris. He was very kind. と言っても、ケンが今は不親切になったという意味にはなりません。過去形が言っているのは、あくまで「過去の時点についての話」ということです。

◆ ② 心の距離:控えめ・丁寧な言い方

2つ目のルートは、言い方を一歩引かせる使い方です。日本語では「です・ます」などで相手との間合いを整えます。英語では、過去形も言い方を控えめにする手段の一つになります(丁寧さを出す方法は、please や疑問文の形など、ほかにもたくさんあります)。

Can you help me?
手伝ってもらえる?
比較的ストレートな依頼。これ自体も失礼な言い方ではない。
Could you help me?
手伝っていただけますか?
過去形で一歩引くことで、依頼の直接性がやわらぐ。そのぶん、相手が断れる余地が広く感じられる。

丁寧さを生む大事な要素の一つが、相手が断れる余地を残すことです。一歩引いて頼むことで、相手に「逃げ道」を渡しているわけです。引く度合いが大きくなるほど、言い方は控えめになっていきます。

言い方控えめさ響き
Can you help me?●○○ストレートで気軽な依頼
Could you help me?●●○一段やわらかい依頼。幅広い場面で使える
I was wondering if you could help me.●●●かなり控えめで改まった依頼。メールなどにも

※相手によって使う言い方が決まっているわけではありません。「どれくらい直接的に頼むか」の目盛りと考えてください。

最後の I was wondering if … は、過去形(was)に進行形(wondering)が加わり、さらに間接的で控えめな響きになった頼み方です。同じ発想で、今聞きたいことがあるのに I wanted to ask you something.(ちょっとお聞きしたかったのですが)と言うこともよくあります。今この場で要求を突きつける形を避けた、気づかいの過去形です。

日本語にも似た感覚がある
お店で耳にする「こちらでよろしかったでしょうか」。今の確認なのに「た」を使っています。日本語として正しいかどうかは議論があり、日本語の「た」と英語の過去形が同じ仕組みだという証拠にもなりません。それでも、過去の形にすると一歩引いた響きになるという感覚を連想させる例として、よく取り上げられます。

◆ ③ 現実の距離:仮定法

3つ目のルートは、現実そのものから離れる使い方です。高校英語の難所といわれる仮定法も、この見方で整理しやすくなります。

If I were a bird, I would fly to you.
もし私が鳥だったら、あなたのもとへ飛んでいくのに。
話しているのは「今」。でも自分が鳥であるというのは、現実から切り離した仮の世界の話。

面白いのは、ここでの were が「昔」を表していないことです。主語が I なら、ふつうの過去形は was のはず。それでも were を使うのは、この were が「現実ではない世界の話ですよ」という標識として残っている形だからです。

※学校文法では「仮定法過去」と呼びます。現代の英文法研究には、この were をふつうの過去形とは別の特別な形として扱う考え方もあります。くだけた会話では was も使われますが、試験では were が基本です。

同じ「もし」でも形が変わる理由

「もし〜なら」という文は、いつも過去形になるわけではありません。話し手がその条件を、現実の見通しの中で語るのか、仮の世界に置いて語るのかで形が変わります。

If it rains tomorrow, I will stay home.
明日雨が降ったら、家にいるよ。
現実に起こりうることとして、見通しの中で語っている。だから現在形。
If I won the lottery, I would buy a house.
もし宝くじが当たったら、家を買うのになあ。
現実の予定としてではなく、仮の世界に置いて語っている。だから過去形。

ここで注意したいのは、過去形を選ぶ基準が「確率が低いかどうか」ではないことです。

If you left now, you would catch the train.
今出れば、電車に間に合うよ。
十分ありうることでも、「仮にそうしたら」と一歩引いて示すと過去形になる。

つまり過去形を決めているのは、現実から切り離して「仮の世界」に置いているかどうかです。確率の話ではなく、置き場所の話だと考えると、距離のイメージがはっきりします。

現実とずれた願い・決まった構文にも

I wish I had more time.
もっと時間があればいいのに。
実際には時間がない。願っている内容が現実と離れているので過去形。
It’s time you went to bed.
もう寝る時間ですよ。
It’s time + 過去形 という決まった構文。「本来ならもう寝ている頃だ」という、現実とのずれを示す過去形。

◆ 仮定法過去完了は「2歩」離れる

仮定法過去完了(If I had studied …)がなぜ過去完了形になるのかも、距離で整理できます。ここでは2種類の距離が重なっています。had studied のうち、完了形(have + 過去分詞)の部分が「過去のこと」を、過去形(had)の部分が「現実ではないこと」を受け持っています。

現実の見通しは距離0、仮定法過去は現実から1歩、仮定法過去完了は時間1歩と現実1歩

時間の距離と現実の距離が重なると、仮定法過去完了になる
If I had studied harder, I would have passed the exam.
もっと勉強していたら、試験に受かっていたのに。
過去のことについて(時間1歩)、実際とは違う仮の世界を想像している(現実1歩)。

「昔の話だから過去完了」と覚えるより、「過去の話を、さらに仮の世界に置いている」と捉えるほうが、形の理由がはっきりします。

注意:過去完了形がいつも「2歩」なわけではない
When I arrived, he had already left.(私が着いたとき、彼はもう出発していた)は仮定ではなく、「着いた時点よりも前」という時間の関係を表しているだけです。「2歩」の図式は、仮定法過去完了に限った話です。

◆ どの距離かは文脈で決まる

同じ過去形でも、どの方向の距離なのかは文脈で決まります。could を例にとると、代表的な3つのルートがすべて現れます。

英文距離意味
I could swim when I was five.時間5歳のときには泳げた
Could you open the window?心窓を開けていただけますか
I could fly if I had wings.現実翼があれば飛べるのに
読み分けの手がかり
◆ when I was …、yesterday などの「過去の時」がある → 時間の距離
◆ 相手への依頼・申し出の疑問文 → 心の距離
◆ 過去形を伴う if 節、wish など → 現実の距離

「could=できた」と機械的に訳すと、Could you …? を「あなたはできましたか?」と訳してしまいます。形を見たら、まず「何から離れているのか」を考える習慣をつけると、この種の誤訳は大きく減らせます。

なお、It could rain this afternoon.(午後は雨が降るかもしれない)の could も、「降る」と言い切る地点から一歩下がった言い方として読むことができ、距離の発想と相性のよい使い方です。

3つの距離とは別枠:時制の一致
Ken said he was tired.(ケンは疲れていると言った)の was は、昔の話そのものでも、丁寧さでも、仮定でもありません。said に合わせて形を過去にずらしたもので、「時制の一致」と呼ばれます。She said she could swim. の could も同じです。過去形には、この使い方もあることを覚えておきましょう。

◎ 確認問題

次の文の過去形は、どの使い方でしょうか。A 時間B 心C 現実D 時制の一致 から選んでください。

1I wanted to ask you a question.
2We lived in Kyoto when I was a child.
3If I knew her number, I would call her.
4It’s time we left.
5Would you like some tea?
6She said she was busy.
解答と解説
1. B 聞きたいのは今。依頼の直接性をやわらげる、控えめな過去形。
2. A when I was a child が手がかり。子どもの頃という過去の時点について述べている(今どこに住んでいるかは、この文だけではわからない)。
3. C 実際には番号を知らない。今の現実から切り離した仮の世界。
4. C It’s time + 過去形の構文。「本来ならもう出発している頃だ」という現実とのずれ。
5. B 今の申し出。Do you want …? より一歩引いた、控えめな言い方。
6. D said に合わせて is を was にずらしている。

◎ 一本の線でつながる文法

時間から離れれば「昔のこと」、現実から離れれば「仮定」、言い方を一歩引かせれば「控えめ・丁寧」。一見ばらばらな3つの用法も、「距離」という一本の線で理解することができます。

ルールを3つ別々に暗記するより、ひとつの見方を持っているほうが、初めて見る英文にも対応しやすくなります。

過去形を見つけたら、「いつの話?」の前に
「何から離れている?」と考えてみよう。
YBA教育研究会
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