2026年10月30日
はなぜ?
机の前で、一人の生徒が深いため息をつきながらペンを置いた。
生 生徒 | 「『マイナスにマイナスをかけるとプラスになる』……教科書に書いてあるから覚えたけど、正直ぜんぜん意味がわからない。数学って、ただの丸暗記の我慢比べなのかな」 |
「ちょっと待った!」
重い空気を切り裂くように扉が勢いよく開き、3人の男たちが駆け込んできた。
映 | 巻き戻しの映写技師 映像で考える |
商 | ガチ損得の商人 お金と損得で考える |
建 | ルールを守る建築士 決まりのつじつまで考える |
映 技師 | 「いいかい、数学は暗記じゃない。映画を見るように、頭の中で映像を回すんだ!」 |
古いフィルムカメラを構える仕草をしながら、映写技師が続ける。
映 技師 | 「左へ向かって走る車を、スマホで撮ってごらん。それを逆再生したらどう見える?」 |
生 生徒 | 「え……左に進んでいたんだから、巻き戻したら……右へ進んで見えます!」 |
映 技師 | 「その通り! この感じを数字で確かめよう。まず、右向きをプラス、左向きをマイナスと決めておく」 |
映 技師 | 「車はいま0の地点にいて、毎秒2mずつ左へ進んでいる。向きまでこめた速さ、つまり速度は −2m/秒 だ。3秒たったら、左へ6m進んで −6 の地点。ここまではいいね」 |
映 技師 | 「では、3秒前はどこにいた? この車は、前からずっと同じ速度で走っていたとしよう。3秒後を +3秒 とするなら、3秒前は −3秒。映像を3秒巻き戻すと、車は右へ戻っていく。答えは +6 の地点だ」 |
(−2) × (+3) = −6 速度 × 3秒後 = 左へ6m |
(−2) × (−3) = +6 速度 × 3秒前 = 右へ6m |
映 技師 | 「左向き(マイナス)の動きを、時間の巻き戻し(マイナス)で見ると、車は右(プラス)へ戻っていく。ほら、マイナスをもう一度ひっくり返すとプラスになる感じが、目で見えるだろ?」 |
生 生徒 | 「うわ、頭の中で車がピタッと右に戻りました!」 |
「おいおい技師、そんなSFみたいな話より、もっと身近で確実なものがあるだろう」
パチパチと電卓をはじきながら割って入ったのは、ガチ損得の商人だ。
商 商人 | 「世の中はお金と損得で動いてる。ここに『1000円の借金カード』がある。1枚あるごとに、君の財産は −1000円 だ。このカードを、3枚押しつけられたらどうだい?」 |
生 生徒 | 「最悪です。3000円の損です」 |
商 商人 | 「そう。増える(+3)×借金(−1000)で、−3000。損だ。では逆に、親切な人が現れて、君の借金カードを3枚取り除いてくれたら?」 |
生 生徒 | 「……めちゃくちゃうれしいです。3000円得した気分になります」 |
| 借金カード | 式 | 結果 |
| 3枚増える | (+3)×(−1000) | −3000(損) |
| 3枚消える | (−3)×(−1000) | +3000(得) |
商 商人 | 「財布に札が湧いてくるわけじゃない。だが借金が消えれば、君の財産の状態は3000円分よくなる。『損が消える=得をする』。生きる実感として、これ以上わかりやすいプラスはないだろ?」 |
生徒は笑いかけて、ふと首をかしげた。
生 生徒 | 「借金が消えるのはうれしすぎます。たしかにプラスですね。……でもそれって、車やお金の話だとそう見える、というだけですよね? 数学そのものでも、絶対にプラスになるんですか?」 |
「いい質問だ」
ふたりのやり取りを腕組みして眺めていた建築士が、図面ケースを置き、メガネのブリッジを押し上げた。
建 建築士 | 「ふたりとも見事な例えだ。だが例えは、あくまで『そう考えると自然だ』という入り口。本当にそうならなければいけない理由は、数のルールの中にある。準備運動として、階段を一段ずつ下りてみよう。左の数を 3、2、1、0……と一段ずつ下げながら、毎回 (−2) との掛け算を見ていくんだ」 |
| 左の数 | 3 | 2 | 1 | 0 | −1 | −2 |
| 左の数×(−2) | −6 | −4 | −2 | 0 | ? | ? |
| 前との差 | +2 | +2 | +2 | +2 | +2 |
建 建築士 | 「左の数が1減るたびに、答えは2ずつ増えている。この規則が0を越えても続くなら、(−1)×(−2) は +2、(−2)×(−2) は +4 だ。階段の途中で、急に向きを変える理由はどこにもない」 |
建 建築士 | 「とはいえ、規則性だけでは『たまたまそう見えるだけ』と言われるかもしれない。だから、柱そのものの強さで確かめよう」 |
建築士は黒板に一本の式をさらさらと書きつけた。
建 建築士 | 「かっこの中は 1+(−1)=0 だから、全体は0。今度は同じ式を分配法則でばらしてみる」 |
建 建築士 | 「(−1)×1 は、何に 1 を掛けても数は変わらないから −1 だ。もとの式は0なんだから、−1+□=0。□に入る数は +1 しかない。つまり (−1)×(−1) は、誰かが好みで決めたのではない。これまで使ってきた分配法則などの計算ルールをそのまま守るなら、自動的に+1に決まってしまうんだ」 |
建 建築士 | 「もし (−1)×(−1)=−1 だと言い張ったらどうなるか。左辺は −1+(−1)=−2、右辺は0。等号が崩れる。ここだけ勝手に −1 にしたら、さっきまで使えていた分配法則とつじつまが合わなくなるんだ。人類が何千年もかけて積み上げてきた『数学というビル』の柱を、ここだけ勝手に抜くわけにはいかないんだよ」 |
建 建築士 | 「今は −1 どうしで確かめたが、同じ分配法則は −2 でも −3 でも、どんな負の数でも使える。だからマイナス×マイナスは、いつでもプラスになる」 |
生 生徒 | 「……ちょっと鳥肌が立ちました。誰かが勝手に決めたんじゃなくて、そうならないとつじつまが合わなくなるんですね」 |
a、b を正の数とします。b+(−b)=0 なので、
| (−a)×{b+(−b)} = 0 |
| (−a)×b + (−a)×(−b) = 0分配法則でばらす |
| −ab + (−a)×(−b) = 0(−a)×b は −a を b 個集めたもの |
| (−a)×(−b) = abだから正 |
a と b にどんな正の数を入れても同じ流れになるので、負の数どうしの積は必ず正になります。
映 技師 | 「どうだ、最初に絵が浮かんだのは俺のカメラのおかげだろ?」 |
商 商人 | 「まあ、車より借金のほうがよっぽど切実だけどな」 |
映 技師 | 「夢がないなあ、お前は!」 |
建 建築士 | 「ふたりとも、そろそろ授業に戻ってくれないか。最後に柱を立てたのは私だぞ」 |
言い合う3人を見ながら、生徒がぽつりとつぶやいた。
生 生徒 | 「……でも、車の逆再生も、借金が消える話も、分配法則も、全部同じ答えになるんですね」 |
3人は顔を見合わせ、少しだけ黙った。
建 建築士 | 「そういうことだ。今は映像や損得で納得できれば十分。いつか学年が上がり、もっと抽象的な世界に挑むとき、私の『ルールのつじつま』が支えになる。入り口は、どこからでもいい」 |
商 商人 | 「入り口が三つあれば、客も三倍だしな」 |
映 技師 | 「だから夢がないんだって!」 |
同じ計算を、3人それぞれのやり方でたどってみましょう。どの道を通っても、着く場所は同じです。
| ◆ 映像 | 毎秒3mで左へ進む車(速度 −3m/秒)の、4秒前(−4秒)の位置は? 巻き戻すと右へ12m戻るから +12。 |
| ◆ お金 | 千円札1枚を「1」と数えるのが商人流。4千円の借金カード(−4)を3枚取り除く(−3)と、財産は12千円分よくなる。つまり +12。 |
| ◆ ルール | (−3)×{4+(−4)}=0。ばらすと −12+□=0 だから、□=+12。 |
| どの入り口から考えても、(−3)×(−4)=+12 | |
| ◎ 車の映像がパッと浮かんだ | 映像の入り口 図やグラフ、動きに置きかえてみる |
| ◎ 借金カードの話で腑に落ちた | 実感の入り口 身近な場面に置きかえてみる |
| ◎ 分配法則の証明にワクワクした | 理屈の入り口 「なぜそう決まるか」を追ってみる |
どの入り口が合うかは、人によっても、単元によっても変わります。図形では映像が効き、文字式では理屈が効く、ということもよくあります。入り口を一つに決めつけず、いくつも持っておくことが、いちばんの強みになります。
数学につまずいたとき、「自分にはセンスがない」「頭が悪いんだ」と自分を責める必要はまったくありません。
人の脳には、それぞれ心地よい「理解のスイッチ」があります。目に見える動きで腑に落ちる人。生活の実感や損得でスッキリ納得する人。緻密な理屈の美しさにワクワクする人。
公式の丸暗記を強いられてペンが止まってしまったなら、それは才能が足りないからとは限りません。まだ「君の頭の形に合う説明」に出会っていないだけかもしれないのです。説明の入り口を変えるだけで、急に景色が見えてくることがあります。
入り口をその場で選べる
大人数の授業では、時間の都合上、一つの説明で全員を進めるしかない場面がどうしても多くなります。けれど、車の映像でパッと開ける子もいれば、借金の話で初めて腹に落ちる子もいる。理解のルートは一人ひとり違います。
YBA教育研究会は、1975年から経堂で続く完全1対1の個別指導塾です。講師が目の前の生徒の表情を見ながら、映像で見せるか、身近な例に置きかえるか、理屈から組み立てるかを、その場で切りかえられる。それが1対1指導のいちばんの強みです。
「覚えたけど、わからない」から「なるほど、そういうことか」へ。君だけの入り口を、ここから一緒に探してみませんか。
YBA教育研究会では、各教科の学習を、単なる暗記や作業ではなく、「なぜそうなるのか」を考えるところから指導しています。
世田谷・経堂で完全1対1の個別指導をお探しの方は、ぜひご覧ください。 → 経堂の完全1対1個別指導|YBA教育研究会の指導内容はこちら