【中学3年・数学】ルートや因数分解って大人になって何に使うの?コピー機やネット暗号で働いている数学の真実

【中学3年・数学】ルートや因数分解って大人になって何に使うの?コピー機やネット暗号で働いている数学の真実

中学3年 数学のギモン

ルートや因数分解って、
大人になってから何に使うの?

√2 = 1.41421356…

この数字、実はコピー機のボタンに書いてあります。

「ルートや因数分解なんて、大人になってから使わないでしょ?」

中学3年生になると、ほぼ全員が一度はこう思います。とても健全な疑問です。そして正直に言えば、大人が√を手で計算したり、x²−9を因数分解したりする場面はほとんどありません。

ただ、「計算しない」ことと「使われていない」ことは別の話です。ルートや因数分解は、コピー機、コンセント、テストの偏差値、ネットの暗号の中にそのまま入っていて、私たちは毎日その上で暮らしています。この記事では、「身の回りのどこに入っているか」と「考え方として何が残るか」の順に見ていきます。

ルートはこんなところに入っている

コピー機の「141%」と「71%」

学校や職場のコピー機には、「A4→A3 141%」「A3→A4 71%」というボタンがあります。この中途半端な数字の正体がルートです。

A判の紙は、縦と横の比が 1 : √2 になるように作られています。この比率には「半分に折っても同じ形のまま」という便利な性質があり、A3を半分にするとA4、A4を半分にするとA5になります。

A3を半分に折るとA4が2枚になる図
A3の紙を半分にすると、同じ形のA4が2枚できる

面積がちょうど2倍になるとき、辺の長さは2倍ではなく√2倍(約1.41倍)になります。だからA4をA3に拡大するボタンは「141%」、逆に縮小するボタンは「1÷√2 ≒ 0.71」で「71%」なのです。

◎ ここがポイント

「面積を2倍にしたい → 長さは√2倍」という考え方は、中学3年の「相似」の単元とそのままつながっています。ピザのLサイズとMサイズの比較や、写真の引き伸ばしにも同じ考え方が使えます。

コンセントの「100V」の本当の姿

日本の家庭用コンセントは「100V」と言われます。でもこれは「ずっと100V」という意味ではありません。

実際の電圧は、約+141Vから約−141Vまでを行ったり来たりしています。この1往復を、東日本では1秒間に50回、西日本では60回という速さでくり返しています(境目はおおよそ静岡県の富士川と新潟県の糸魚川)。家のコンセントは、実は141V(100×√2)まで行っているのです。

交流電圧の波形と100Vと141Vの線
一番高いところは約141V。「100V」は同じ働きをする一定の電圧に換算した値

プラスとマイナスを行き来する電圧を単純に平均すると、0Vになってしまいます。それでは電気の働きを表せません。そこで「この上下する電圧は、ずっと一定の電圧(直流)なら何Vと同じ働きをするか」で表すことにしました。これを実効値といい、きれいな波の場合は最大値を√2で割った値になります。141÷√2≒100。これが「100V」の正体です。

高校の物理で本格的に学ぶ内容ですが、入口は中学のルートです。

テストの「偏差値」はルートで計算されている

受験生にとって一番身近なルートは、模試の偏差値かもしれません。偏差値を出すには「みんなの点数がどれくらいバラついているか」を表す標準偏差という数値が必要で、その計算の最後の一手がルートです。

標準偏差 = √(各人の平均からのズレを2乗した値の平均)

ズレをそのまま足すとプラスとマイナスで打ち消し合ってしまうので、いったん2乗してから平均し、最後に√で元の単位(点数)に戻す。ルートは「2乗して処理したものを元に戻す道具」として働いています。

世論調査の「誤差」もルートで決まる

ニュースで見る内閣支持率などの世論調査は、国民全員ではなく1000人程度に聞いて全体を推測しています。当然、結果には誤差があります。人数を増やせば誤差は小さくなりますが、その減り方が意外なのです。

調査人数を4倍にしても、
誤差は半分にしかならない

誤差は「人数」ではなく「人数の√」に反比例するから

調査人数 1000人誤差は最大でおよそ ±3ポイント
調査人数 4000人誤差は最大でおよそ ±1.5ポイント
誤差を1/10にしたい人数を100倍(10万人)にする必要がある

10倍の人数に聞いても、正確さは10倍にはならず、約3倍(√10≒3.16)にとどまります。調査にかけるお金と正確さのバランスを決めるとき、このルートの性質が判断の基準になっています。

※誤差の数値は、無作為に選んだ人に聞いた場合の単純化した目安です。

因数分解はこんなところに入っている

冒頭でも書いたとおり、大人が仕事中に突然「x²+5x+6を因数分解しよう」となることは、まずありません。ルートのように「実はコピー機のボタンに…」という話も、因数分解にはあまりありません。

それでも、因数分解の「掛け算でできたものを、元の部品に戻す」という発想は、意外なところで大きな役割を果たしています。

因数分解の「親戚」が、ネットの暗号を守っている

先に断っておくと、中学の因数分解とネットの暗号がそのままつながっているわけではありません。中学で習うのは「式の因数分解(x²+5x+6 → (x+2)(x+3))」、暗号で使うのは「数の素因数分解(15 → 3×5)」で、別の作業です。ただ、どちらも掛け算を元に戻すという、よく似た発想に立っています。

ネットショッピングでカード番号を送るとき、通信は暗号で守られています。代表的な暗号方式のひとつ「RSA暗号」は、次の性質を利用しています。

◆ RSA暗号の土台になっている性質

2つの巨大な素数を掛け算するのは、コンピューターなら一瞬。

ところが、できあがった数を元の2つの素数に分解する(素因数分解する)のは、とてつもなく時間がかかる。

どれくらい難しいのか、実際の記録で見てみましょう。2020年、フランスとアメリカの研究チームが250桁の数の素因数分解に成功しました。このとき必要だった計算量は、コンピューターの計算コア1個で休まず計算すると約2700年かかる量です。世界中の数万台の機器を使って、ようやく数か月で終わらせました。

そしてつい最近の2026年9月、1991年に出題されてから35年間誰も分解できなかった260桁の数の分解が報告され、世界的な話題になりました。どのような方法で計算したのかは、2026年9月時点ではまだ公表されていません。

それでも、ネットの暗号がすぐ危なくなるわけではありません。実際の暗号で使われているのは617桁(2048ビット)といった、さらにけた違いに大きな数だからです。250桁から260桁へ記録を伸ばすのに6年かかったことを考えると、その差の大きさがわかります。

「掛けるのは簡単、戻すのは難しい」。この差こそが、暗号の安全性を支えています。

◎ 最新のトピック

将来「量子コンピューター」が実用化されると、素因数分解が一気に速くなる可能性があります。そのため世界では、素因数分解に頼らない新しい暗号への切り替えがすでに始まっています。数学の性質ひとつで、社会の安全の仕組みが変わるわけです。

暗算がラクになる「公式の逆利用」

もっと身近な使い道もあります。因数分解の公式 (a+b)(a−b)=a²−b² を知っていると、次のような計算が暗算でできます。

43 × 37 = (40+3)(40−3) = 1600 − 9 = 1591

98 × 102 = (100−2)(100+2) = 10000 − 4 = 9996

「そのまま計算すると大変なものを、形を変えて見やすくする」。この発想は、次の章で話す「考え方として残るもの」の中心でもあります。

計算しなくなっても、考え方は残る

ここまで具体例を見てきましたが、ほとんどの大人はコピー機のボタンを押すだけで、√2の計算はしません。それでも数学を学ぶ意味があるのは、次のような「考え方の型」が残るからです。

因数分解 =「解けない形なら、解ける形に変えてみる」

x²−5x+6=0 は、そのままでは答えが見えません。ところが (x−2)(x−3)=0 と変形した瞬間に、「x=2 か 3」が見えてきます。問題そのものは変わっていないのに、表し方を変えるだけで解ける。これが因数分解の本質です。

因数分解で身につけたいのは、公式を覚えることより「解けない形なら、解ける形に変えてみる」という発想です。この発想は、二次方程式にも、図形の証明にも、入試の難しい問題にも、何度も出てきます。

ルート =「逆にたどって元を求める」

√は「2乗すると○○になる数は何か」という逆向きの問いから生まれた記号です。「面積から一辺を求める」「2乗して計算した偏差値の材料を点数に戻す」など、結果から出発して元をたどる場面で必ず登場します。

また、√2 は 1.41421356… と終わりなく続き、分数でも書けません。それでも「2乗すると2になる数」と定義すればはっきり扱える。あいまいに見えるものを、言葉と記号で正確に定める姿勢も、ルートが教えてくれることのひとつです。

◎ 「数学は脳の筋トレ」の、もう一歩先

よく「数学は脳の筋トレだから役に立つ」と言われます。それも一理ありますが、筋トレのたとえだけだと「結局、計算そのものは無駄」と聞こえてしまいます。

実際には、ルートや因数分解は筋トレ用の器具ではなく、社会の中で本当に働いている道具です。道具としての使われ方を知り、そのうえで考え方の型を身につける。この両方がそろうと、「なぜこれを勉強するのか」に自分で答えられるようになります。

あのボタンの奥には、√2がいる

次にコピー機で「141%」という数字を見つけたら、思い出してください。あのボタンの奥には、ちゃんと√2がいます。

数学は、教科書の中だけにあるわけではありません。気づかれないように作られているだけで、社会のあちこちで働いています。「これ、何に使うの?」という疑問は、それを見つけるための入口です。

YBA教育研究会では、完全1対1の個別指導で「なぜそうなるのか」から一緒に考えます。解き方の暗記で終わらせず、公式の意味や使われ方まで理解することで、応用問題にも強くなります。

YBA教育研究会

1975年創立 経堂の完全1対1個別指導塾

東京都世田谷区宮坂1-46-11(小田急線 経堂駅)

参考

Integer Factoring Records(P. Zimmermann, INRIA):https://members.loria.fr/PZimmermann/records/factor.html

What’s the tech behind the record-breaking RSA-260 crack?(Scientific American, 2026年9月4日):https://www.scientificamerican.com/article/whats-the-tech-behind-the-record-breaking-rsa-260-crack/

YBA教育研究会では、各教科の学習を、単なる暗記や作業ではなく、「なぜそうなるのか」を考えるところから指導しています。

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